このところ線香の注文が増え始めた。社名を「安心堂」としたのにも何時か線香が売れ始めるだろうという思惑があって命名したわけだった。
 戒名香細い線香に金色で文字印刷をしたのは今から16年以上も前の事だった。バブルが崩壊し産業構造に必ず変化が現れるだろうと言う予測をしたのもその頃だった。自分の技術を生かして何かオリジナル商品を作りださねばと言う思いで必死に商品開発を考えたのもその頃だった。
 歴史的に見て過去のバブル崩壊後にどのような産業が興ったのかを学習したところ宗教産業と教育産業と言うのを知った。その頃すでに日本が高齢化社会に変化する事が取りざたされていた。その頃は年間80万人位の年間死亡者が居たがいずれ年間170万人以上になる予測がある。今は100万人を超える年間死亡者なっている、未だ1.5倍くらいの成長市場になっているのが葬祭市場だと言うことになる。それを知ったので何か葬祭と関連する商品開発をしておかねばと言うことから「焚経香」を販売する事になった。
 「安心堂」と言う会社を立ち上げると同時に「ダイヤモンド経営者倶楽部」と言うのに入会した。そこで「焚経香」をプレゼンしたところ評価は散々だった。お経を印刷してそれを燃やしてしまうのはお経を冒涜しているとまで言われたりもした。それには護摩を焚く事などで古くから経文や願い事を焚きあげる風習は日常化していると応えた。「焚」と言う字は焚書坑儒などでイメージの良くないのではないかと言う意見もあったが、焚くと言う字には香をくゆらすと言う意味もあると説明した。それを酷評した人などとはその後非常に親しくなった。ただしその印刷技術を高く評価する人も居た。
 若い人などは漢字が線香に印刷してあって何の意味があるのかと全く関心を持たない人が多くいるのも事実で、若い人たちの漢字離れを感じたのもその頃だった。少なくとも団塊世代の人達が長ずれば必ず仏教的なものに親しみを持ってくるはずだと思っていたが、定年時代が訪れて今やそんな時代になって来たかのように感じられる。そんな時代背景がいずれ線香の売り上げを伸ばしていってくれると思っていたのであまり焦る事はしなかった。
 それに引き換え「パッド印刷」と言う言葉さえ知らない人が居るのは驚くほどでその有効な印刷技法を広めるのが急務だと思っている。昨日もある会社が納期が迫っているのにマグカップに印刷が出来ないで困っていると言って飛び込んできた。世界的にも有名なコーヒーショップの大手が何らかのイベントで使うものなのだろう。よく見かけるその会社のロゴを他所で曲面印刷機で印刷したりしたが形状からいって無理だったようだ。パッド印刷でも上手くいかなかったらしい、この期に及んで印刷出来ないと言われて困りに困っているのだと思う。今日朝一番で試刷りをしてその結果を見に来てもらう、何とか助けてあげたい。昨夜の内にその印刷冶具を作っておいた、何とかしてあげられるだろうと思う。